科学者 新田英之 キュリー研究所 滞在記

一度しかない人生をいかに生きるかは、万人にとっての根源的な問いである。政治・経済や国際情勢、世界が混沌としていて、 全く先が読めない現代を生きる我々は、人間がこれまで経験してきた感覚を上回るスピードで様々な選択を迫られる。

人生における大きな選択の一つに、どこに住んで何をするか。つまり身を置く場所を自ら選ぶことがあり、どこで誰と働き、学び、遊び、生活を共にするかは人生を大きく左右する。

人生の限られた時間の中で、できるだけ自分のやりたいことができ、自分が満足できる人生に近づける環境を自ら選ぶことは、これまで以上に重要になってくる。

私はこれまで、自分の意思と行動で希望する場所に身を置いてきたことによって、多くのかけがえのない経験をえることができた。その中でも最も稀有な出来事の一つが、20代の多感な時期に、ノーベル賞を2度受賞し、偉人伝などで馴染みの方も多いキュリー夫人が創設したキュリー研究所で勤務する機会を、多くの障害を乗り越え、自ら勝ち取ったことである。

そこで研究者として勤務しながら、パリで様々な芸術を肌で吸収し、多くの著名ピアニスト達の薫陶を受けることができた。もちろんすべてが思い通りにできたわけではないが、非常に「生きている」ことを実感しながら自分が持つ素養を磨けたことは間違いない。運に恵まれたことも一因であるが、自分にとって最高の居場所を自らの意思と行動で勝ち取ったから得られたものばかりである。特にこれからの時代を生きる方々にとって、人生の重要な選択をする際に、本ブログに綴られた私の経験が何かしら参考になればこの上ない喜びである。

また、過ぎ去ってしまった21世紀初頭のキュリー研究所、パリの様子や、その文化的雰囲気の中で私がみたものを後世にのこしたいというのも、当時の日記をブログの形として公開するもう一つの動機である。知られる機会のない当時のキュリー研究所内部や研究者達の営みを、科学研究に関わらない方々にも垣間見て頂き、またパリを愛する方々に何らかの共感と郷愁を想起頂ければ、微力ながら学術・文化継承への一助となるだろう。

本ブログは私自身の当時の日記を綴ったものである。現在の私の考えや価値観とは異なるところも多いが、20代当時の言葉をあえて残してある。