6月15日マウリツィオ・ポリーニ@シャトレ劇場

6月15日マウリツィオ・ポリーニ@シャトレ劇場

未分類

 この頃、自分が開発した新型磁気ピンセットシステムはほぼ完成し、それを用いて一日中ビーズつきDNAを手作業で一本一本、数十回転ねじりを加え、欠損のない2本鎖DNAであるかを確認していくという途方もない単純作業を続けていた。共同研究者でもあったある同僚に、このシステムにDNAを自動で巻き上げるシステム組み込んでから、機械に任せてやった方が効率いいのではとのアドバイスを頂いたが、そのシステムを組み上げるためにもまた膨大な労力が必要とされる。振り返ってみると、この時彼女のアドバイスを受け入れなかったことが、短期間で成功を勝ち取るための重要な分岐点となった。このような、その後のプロジェクトの運命を大きく左右する一つ一つの小さな分岐点では、自分の才能とこれまでの経験で培った感を信じて思い切って決断を下すしか方法はないのだろう。
 晩はシャトレ劇場で、マウリツィオ・ポリーニのピアノを生演奏では初めて聴いた。だいぶお年を召していたようで、リスト作曲のピアノソナタなどではミスや暗譜が飛ぶ(曲の一部の記憶が不確かになり、演奏が止まったり、一部省略してしまうなどの演奏上の過誤を、ピアノ弾きの間では「暗譜が飛ぶ」という)、技巧的な曲はよたよたし、最盛期のキレの良い技巧は聴かれなかったが、音質や演奏スタイルに、輝かしかった在りし日の鱗片を確認できた。フランツ・リスト作曲による晩年の宗教曲と、アンコールで披露したドビュッシーの小品からは、巨匠と呼ぶにふさわしい深みを感じた。