4月22日DNA伸長実験成功
私がキュリー研で目指していた、蛋白質がDNAをねじる運動を観測するためには、DNA一本を引き延ばすことが最初の重要な課題であった。そのため、パリについた直後から、DNAの一端をスライドガラス表面に、もう一端を人口のマイクロ磁気ビーズに貼り付け、磁気ビーズを磁石で上に引き上げることにより、DNAを引き延ばすという仕掛けと顕微鏡が合体した実験セットアップを、自ら手作りでくみ上げていた。
そして遂にこの日、DNAを引き延ばす実験に成功に成功した。しかし、これもゴールへの長い道のりの第1歩である。実は1ヶ月程前からDNAを引き延ばすことに成功していたようであるが、そのことに気がつかないままであったようである。それもこれも、同僚から聞いた我々の使っているDNAの長さが5マイクロメートルであったのに15マイクロメートルだと聞き間違えていたことが、DNAが引き延ばされていることに気づかなかった原因であった。フランス語の不得手が1カ月の時間ロスを生んでしまった。
成功の噂を聞きつけ、同僚たちが次から次へと実験室を訪れ、質問とお祝い、励ましの言葉をもらった。私がDNAを引き延ばしたというちょっとした騒ぎも、二日程経てばまた皆が忘れてしまったように収まったが、年齢や肩書にではなく純粋に研究成果そのものに正直に反応する彼らの素晴らしい研究文化に触発された。その後6月末に、Rad51タンパク質によるDNAのねじり運動観測に成功した時、今回とは比較にならない程の騒動を体験することになった。