3月26~28日Single Molecule国際会議@ケンブリッジ

3月26~28日Single Molecule国際会議@ケンブリッジ

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 英国王立化学会主催の一分子生物物理学国際会議。
 私はまだ24歳の大学院生であった頃に、英国王立化学会の論文レフリー(当学会誌に世界中から投稿された論文を審査し、採択するか棄却するか意見を述べる審査員)に任命され、レフリー活動を続けていたため、その本拠地を訪れることを、半ば興味本位で楽しみにしていた。
 私はこの分野ではまだまだ新参者で、たまたま駅からタクシーに乗車した方々が、キュリー研の私の研究グループとライバル(というより険悪な仲)のグループ一行だったことに後で気がついた。知らないうちに重要情報を話すことがなくてよかった。

 この分野で、少数の優れた科学者のみが集まる、大変密度の濃い学会であった。自身は工学出身で一介の新参者であったが、その白熱しながらもむしろ自由な討論の行われる場にとても刺激をうけた。この分野の大御所や有名人がほぼ全員一同に会し、一分子生物物理の最先端を端的に把握することができた。この学会で得た知識や、一刻を争う激しい競争を目の当たりにしたことが、その後のパリで研究を立ち上げ、遂行する際のモチベーションに強い影響を与えた。
 日本人は殆ど参加していなかったため、幸運にも日本においてこの分野で最も権威ある研究者である柳田敏雄先生とゆっくりお話をする機会に恵まれた。彼は私の父の大阪大学大学院時代の後輩であり、「日本人研究者が世界の権威たちと渡り歩くためには、真っ向から討論を受けて立つと言い負かされてしまうため、目立たずこっそりネタを仕込んでおき、気が付いたら勝っていた。という様な戦略をとらないといけない。」という秘策をご教授頂いた。
 この学会に参加していたハンガリー人の研究者に、かねてから私が目をつけていたハンガリーのゼゲド(Szeged)市の国立研究所のPal Ormos教授について話をしたところ、やはり彼はハンガリーで一番の生物物理学者だと、彼の研究や人柄について熱く語ってくれた。これがきっかけで後日、Szegedへ彼を訪問することになった。
 この時、「レーザー冷却により原子を捕捉する技術」でノーベル物理学賞を受賞した後に生物物理の研究にシフトし、更にオバマ大統領の要請により、第12代アメリカ合衆国エネルギー長官も務めたスティーブン・チュー教授の講演を聞く機会にも恵まれた。彼の講演を次に聞いたのは、2010年米国エネルギー長官としてSPに守られながら東京大学を訪れた時であったが、その時は温暖化対策に関する政治家としての講演であった。
 休み時間に、ワトソンとクリックがDNA二重らせんの研究をしていたキャベンディッシュ研究所も見学した。学会参加者の間では、フレデリック・サンガー(ノーベル化学賞を二度受賞した化学者)がレジェンドとして尊敬を集めており、ワトソンは「DNA二重らせんの発見をしていない人(盗んだ人)」という認識でほぼ一致していたようだ。ケンブリッジはのどかな街で、この街ではみすぼらしい服層をしていると「きっとあの方は優秀な学者だろう」、立派な服装をしていると「きっと大したことない俗者だろう」と思われるそうだ。どちらの話題も、洋の東西を問わず世間の評価と一芸を極めた専門家の評価は場合によっては真逆であることを示唆していた。