2月16日、17日キュリー研での討論

2月16日、17日キュリー研での討論

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 同僚のMartial君に、彼が開発した光ピンセット実験装置を見せてもらいながら、その設計や動作原理を色々と教えてもらった。17日は自分の研究について、共同研究者であるミネ博士とカペロ博士との討論を行ったが、知的遊戯と言ってもよいものか、自由な発想をお互いに出し合い、それらをブレンドして何らかの知的産物を生むその議論は、なんともいえない楽しさがあった。相手の年齢や立場を気にしながら発言をするため、自由な発想はむしろ叱責の対象となっていた日本での研究討論を楽しいと思った事がなかった私にとってはあまりにも新鮮であった。これこそがキュリー一家から続く伝統ある知の生産方法なのであろうか。ソルボンヌに通い始めた話をしたところ、イデーがフランス語を始めたと喜んでくれた。ちなみにイデーとは、私のファーストネームの省略系Hideのフランス語発音で、アイディアを現すフランス語idéeと同じ発音であるため、私はこの愛称を気に入っていた。
 討論は4階にあるこじんまりしたカフェで頻繁に行なわれた。壁に貼られたホワイトボードには、数々の研究者たちの即興的な発想による数式や、抽象的な落書きが所狭しとかきこまれている。科学雑誌が置かれた机一つとコーヒーマシンが置かれただけのこの小部屋から、どれだけの知が生み出されてきたことか。この何とも愛してやまない雰囲気で、同僚たちとコーヒーを飲みながら数々の輝かしい成果に結実したアイデイアが生まれたのであろう。実験に疲れた時、しばしばこの部屋で、ラバザーのエスプレッソを片手に一人たたずむことが習慣となった。その部屋にいるだけで、先達や同僚らが振り撒く知性の粉を浴びているような感覚になれた。