2月9日研究室ミーティング:10日Soiree Orange@キュリー

2月9日研究室ミーティング:10日Soiree Orange@キュリー

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 10日はキュリー研で不定期に主催されるSoiree Orange(オレンジのソワレ)に初参加してきた。研究所の一室をオレンジ色で飾り、各々食事を持ち寄るパーティーで、私は稲荷ずしにイクラとキャビアを乗せたオリジナルレシピで参加した。ティラミスのケースにそれらの寿司を詰めて持って行ったため、同僚が「これが日本のティラミス?」と冗談を言いながら喜んで食べてくれた。フランスで手に入る食材でフランス人好みの寿司を同僚に気に入ってもらえた事がとても嬉しかった。当時まだフランス語が十分に話せなかったので話の話題に入っていくことにかなり苦労したが、イクラ稲荷寿司が功を奏してか、普段直接会うことの少ない多くの同僚達と知り合うことができた。

 その集まりで、長身のスウェーデン人、ゲルブランド君が、私と同じくバスケットボール好きだということで意気投合し、その後しばしば週末に体育館やリュクサンブール公園でバスケットボールをする仲間として、深い友情で結ばれた。後にも続く友達とは、いつどのような形で出会うかわからないものである。そのような機会に文化、人種、国籍を超えて結ばれるきっかけを与えてくれるものは、スポーツや芸術など、仕事以外の教養である。そこで確実に言えることは、お互い同じレベルでそれらを共有している必要があるということである。ゲルブランド君と私は、お世辞にもバスケットボールが上手とは言えない同程度のレベルであったから一緒にプレーすることを楽しめたのであり、三島由紀夫に刺激を受けたというある同僚とは、私がフランス・ロマン主義の文豪ヴィクトル・ユゴーに心酔していた事について語れなければ、その場で打ち解けることは難しかったであろう。
 キュリー研に到着した初日、一緒に実験をすることになる大学院生が若いころピアニストを目指していたことを聞き、私が沖縄で行ったピアノコンサートのライブ録音のCDのうちの一つをプレゼントしたことで、お互い研究者として認め合う以前に、瞬時に距離を縮めることができた。それも、お互い演奏を聴けばその熟練度だけでなく、性格や、物事に対する真摯な姿勢、教養の高さや教育・文化レベルを耳で瞬時に感じ取ることができるレベルにあったからである。彼女は当然、私のパリで習っていたコンセルヴァトワールの先生達を知っており、残念なことに彼らに師事することを断られたそうで、代わりに彼女はロシア系の先生に習っていたそうである。面白いことに、私がフランスのピアニズムとエスプリに傾倒していた一方で、フランス人の彼女はロシア系ピアニストの重厚な演奏を好んでいた。
 日ごろ職場では、仕事以外の話をする時間は殆どない程仕事に集中しているが、仕事以外の面で彼らと接するほんのわずかな機会のやり取りで、お互いのこれまでの人生の蓄積をシェアすることも、ここでの重要なコミュニケーションの一つであった。それが芸術であれスポーツであれ、仕事だけでなくそれまで磨いてきた自身の「人間」が試されるのであり、それを嫌がる人や自信のない者にとっては居たたまれない世界であろう。