2月4日オリヴィエ・ギャルドン初レッスン

2月4日オリヴィエ・ギャルドン初レッスン

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ギャルドンby新田英之     
 土曜休日。私の人生の中で忘れられない一日になった。朝11時からrue de St. Petersburgのギャルドン先生宅を訪れ、初めてレッスンを受けた。
 その日は数週間後に控えたコンクールで弾く曲をみて頂いた。曲があまり知られていないものばかりだったため、審査員が評価できないので危険な選曲だといわれた。ドビュッシーやベートーベンを弾くのだといわれ、その場で相談した結果、バッハとショパンに曲を変更するよう言われた。しかし、あまり知られてはいないが、ディヒラー作曲左手のためのカプリチオだけは技巧的に派手なので弾いた方がいいといわれた。因みにこの曲は、東京で師事した最初の先生へ献呈され、その先生から楽譜をプレゼントされた曲であり、かなり弾きこんでいたため、この曲をパリのステージで弾けることはとても嬉しかった。初めてのレッスンで、かつコンクール本番の数週間前に曲を変えられるという厳しさを味わったが、多忙な中、翌週も連続で指導して頂いた。
 フランス語が十分に分からなくてもフランス語だけでレッスンを受けられると聞いてはいたが、なるほど、演奏法や音楽について、教える側と教わる側で共通の知識、感覚があれば、何をおっしゃっているのかおよそ理解することができる。曲の解釈が今までの先生達とは全く違っていて多くの発見があり、初めてみる楽譜でも一瞬で曲の構造、内面、キャラクターを理解し、それをわかりやすく説明する卓越した能力に驚愕した。曲を献呈された先生ご本人も気付かなかったカプリチオのミスプリもその場で発見された時は、正に職人芸の極まる彼の読譜能力に圧倒された。彼はピアニストとして、より少ない力で効果的に演奏する卓越した演奏技巧をもっており、その真髄を生徒に論理的に、時には物理的に教える類まれな能力をもっていた。
 彼の説明を受けると曲がとてもよく理解できるので、ますますその曲に引き込まれてしまう一方、あまりにも乗り越えなければならない課題の多さに圧倒されてしまう。これほどの天才的指導者に幼少期からレッスンを受けられれば、誰でも上達してしまうだとう思ったほどであった。個人の能力開発には本人の努力と才能も重要であるが、本物に触れたり学んだりする機会も不可欠である。
 その後2度に渡るパリ滞在中、彼に個人的にピアノを習う事になった。私はアマチュアの中でも決して上級とは言えないレベルであったが、彼は私以外のアマチュアは教えないと断言しており、彼のもとで2年半学んだことが、私のピアノのほぼ全てを決定づけることになった。パリを去った後、ピアノを弾くことがほとんどなくなったが、これらの経験は人生の糧として、生涯人生に影響を与え続けるのであろう。