2008年11月3日高等師範学校パリ校での無料コンサート

2008年11月3日高等師範学校パリ校での無料コンサート

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高等師範学校(ENS)パリ校でフランス語の授業を受けた帰りに偶然目に入ったHistoire et Theorie des Arts(芸術学部)主催の演奏会に、その時の気分でふらっと寄ってきた。ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグとロシアの作曲家メトネルのヴァイオリンソナタがその日のプログラムだった。これらの曲目は、よほど優秀な演奏者でない限り退屈になってしまうので、夜遅い時間でもあり、はじめはあまり期待せずにいたが、行って正解だった。
 演奏者は若手フランス人達で、ヴァイオリン奏者のRoussevさんはCNSMD(コンセルヴァトワールパリ校)のジャン=ジャック・カントロフ先生のクラスを卒業し、ロン・ティボーコンクールに入賞した実力派。ピアノのD’Oria-Nicolasさんはロシアで研鑽を積んだそうで、風貌もロシア人ぽく十分に脂肪とヒゲを蓄え、ラザール・ベルマンを彷彿させる体格と風貌だった。二人の演奏レベルは非常に高かった。頭にアンテナがついた宇宙人のような秀才しか入れないとも言われるENSでの演奏会なので、さすがに客層も若者はオタク系の学生が多く、その中に老齢の紳士淑女達が交じっていた。音楽の専門家でない私の感想であるが、この客層が聴衆として極めてハイレベルだったことが通常の演奏会とは一線を画していた。壁に過去に在籍していた偉人達の名が刻まれた石版で埋め尽くされ、偉い方々の胸像や彫刻がところ狭しと配置されている普通の教室で、奏者と聴衆の距離が近かったこともよかったのだろう。この時は、まるで聴衆が3人目の奏者として、トリオの演奏に参加していたような印象を受けた。 客席が演奏に反応していて、奏者もそれを感じ取りながら部屋全体で演奏しているような雰囲気の演奏会は、なかなか体験するチャンスはない。
さらにこの時は、たまにあるそういった演奏会とは全然違うレベルを感じた。一見聴衆の皆様は、ただ行儀よく座っているだけなのであるが、傾聴していてかつ理解して反応しているオーラが客席から湧き上がっていた。おそらく彼らは、単なる音楽オタクではなく、高い教養、知性と常識をもった、本物の音楽の聴き方を知っている知的階級なのだろう。なんとなくそんな感じがした。
 大学で、こんなに凄い演奏会を気楽に、授業の帰りにちょっと立ち寄っただけで聴けてしまう環境は羨ましい。学食を昼食に利用する時と、同僚達とバスケをする時に体育館を借りる時しか利用していなかったが、もっとENSを活用したいと思った。