8月14日~ 生物物理夏の合宿@Carges

8月14日~ 生物物理夏の合宿@Carges

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 この合宿には、アメリカのハーバード大学、イスラエルのワイツマン研究所などから超大物研究者達が講師として呼ばれ、講義中のみでなく、食事やビーチバレーをしながらも彼らと討論をすることができた。講師も生徒も生物系分野の出身者はほとんどおらず、ほぼ全員物理系のバックグランドを持つ研究者達だった。早朝と夕方のみレクチャーがあり、それ以外は全くの自由時間だった。

 この合宿を通じ、改めてヨーロッパにおける研究者の待遇の素晴らしさに衝撃をうけた。合宿が行われた会場は素晴らしい地中海の海を臨む丘の斜面にあり、ヨーロッパではめずらしく冷房が完備されていた。合宿中の食事のために、フランス本国からコックを数人連れてきて毎日おいしい食事を頂いた。沖縄の離島以外ではこれまでに見たことがない程白く美しいビーチで泳ぐことができ、宿泊施設にはPCルーム、無料国際電話、ピアノやオーディオ設備が設置されているMusic roomまでも完備されていた。面倒な書類作業などの、いわゆる雑用は一切は、秘書がしてくれる。合宿中も週末はもちろん休みであり、合宿に参加するために必要な交通費、参加費、宿泊費は全て研究所からの研究費で賄われており、個人負担をする必要は一切なかった。これくらいの環境でなければ超一流の研究者が集まってはくれず、またここに参加することにより超一流を学ぶわけであるが、日本社会でこのような環境を用意しようとすれば、経費の無駄使いだという野次が入り、問題視されるだろう。一流の人材を作らない日本の教育、社会制度を、戦後日本の再興を恐れた米国が作ったときいたことがあるが、社会や年輩から頭を押さえつけられて過ごす日本の優秀な若手研究者が、このような待遇を受けて一流の世界に積極的に参加する外国の研究者と対等にわたり歩くためには、本人の能力や努力以前に、かなりのハンディを負っているといっても過言ではなかろう。


 講師を含めた参加者で黄色人種は日本人、中国人、琉球人がそれぞれ1人ずつだった。初日の自由時間はインド人達と卓球をしながら様々な情報交換を行った。複雑怪奇な数学を操りそうな勝手な印象をうけるのは、思い込みだろうか。彼らの中での英雄はやはり、天才数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンとインド人唯一のノーベル賞受賞者である物理学者のチャンドラセカール・ラマンであるらしい。

 金曜の晩は、真っ暗なビーチで若手研究者で宴会を企画し、様々な国から参加している同世代の研究者らと、それぞれの国での研究環境などについて、色々と語りあった。アメリカから来た方は、彼の研究室でも、大変勤勉な大学院生が素晴らしい研究成果を量産しているが、彼にはまだ学位を与えられず、その栄誉は全て上司である教授が受けていると嘆いていた。どこの国でも似たようなことは起こるものである。因みに、優秀な大学院生や研究員に、学位を授与しなかったり、良いポストを得る事を妨害したりして自分の研究室に縛り付け、成果を搾り取ることを日本では「飼い殺し」と呼び、教授達の口から頻繁に聞かれる用語である。実験系やモノづくり系分野では、いかに優秀な若手を多く飼い殺しにして業績を集めるかが偉くなるための唯一の王道であり、若手にとってはいかに飼い殺しにあわないために実験をせずに出世をするかが研究者ゲームの神髄である。そのため、良い成果を出す日本の若手はこの世界ではまず生き残れない。

 この宴会中に、研究の話題をふろうとしたところ、アメリカ人の参加者から「研究の話はするな!」との突っ込みが入った。息抜きは息抜き、メリハリが大事であることを学んだ。地中海の星空は言葉に表せない程綺麗で、沖縄の離島で見た以来、砂浜で寝転んで天の川を眺めた。