4月29日早朝にトム・ジョンソンから電話
この頃になると、連日続く研究活動と、パリ滞在の好機を逃すまいとの様々な活動で私のスケジュールは過密を極めていた。週末ともなれば疲れはてていて、土曜の午前中はゆっくり休息をとりたいところだったが、この日はトム・ジョンソン氏からの早朝電話で目を覚ました。
一言目に「昨日電話かけたか?」と聞かれ、かけていなかったので「いや、かけていない」と答えた。次には「ところで「パスカルの三角形(私に弾いて欲しい彼の自慢の作品)」はどこまで弾けた?」と聞かれ、「最近時間がなくてまだ進んでいなくて申し訳ない」と答えた。「是非練習をすすめてくれ」と念をおされた。はじめの「電話かけたか?」は「パスカルの三角形」の話をするために電話をかける言い訳であったのだ。
少なくとも余裕のなかった当時の私にとっては、愛嬌ととらえる程の余裕はなく、彼が私に「パスカルの三角形」を弾いてほしいとの要求は、むしろ重荷となっていた。