5月23日レオン・フライシャー@シャンゼリゼ劇場

5月23日レオン・フライシャー@シャンゼリゼ劇場

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 キュリー研では地味な実験が続いていた。特にここ数日は不可解な問題がでてきて頭を悩ませていた。小学校以来座右の銘となった「努力、忍耐、根性」で乗り切る他の道はない。
 晩はシャンゼリゼ劇場でレオン・フライシャーのピアノリサイタル。米国のピアニストで指揮者としても活躍しているフライシャー氏は、半世紀も前のキャリア前期に局所性ジストニアで右手の自由を失い、その後左手のみの曲で演奏活動を続けていたが、その頃、ボトックス療法で右手が回復に向かい、両手で弾く曲を徐々にプログラムに組み入れ始めた頃であった。この日のプログラムは左手のみの曲と両手による曲、双方から構成されていた。ブラームスが、右手を故障したクララ・シューマンのために左手だけで演奏できるように編曲したバッハの「シャコンヌ」からは、長年弾き続けていた老練さと苦しみ抜いた者が持つ強さを感じた。プログラム最後のシューベルト作曲の最終ソナタは両手で演奏する曲であるが、右手がやはり完全に回復したわけではないためか、表面上はかなり控えめな演奏であった。ちょうどパリに来る少し前、東京で大学の後輩が師事していた先生
のCDでこの曲を聴き、その情熱的な演奏の虜になり、出国までにその先生レッスンを数回受けていた。その先生は、米国でフライシャー氏にも学んでいたらしい。フライシャー氏のその日の演奏は控えめでありながら、彼女の演奏と共通する情熱と意思の強さを感じ、核となる主張したいパッションや価値観は近いものであるかのような印象をうけた。アンコールを弾く際、聴衆に向かって言い放った”Applaud is a receipt, not a bill”という言葉が、幾通りの解釈が可能であるが、長年の演奏活動で培った経験の重みとユーモアが感じられ、印象的であった。