2月8日イスラエル人科学者@マリー・キュリー記念講堂:スティーヴン・ハフ@ルーブル
キュリー研のマリー・キュリー記念講堂。壁にはキュリー夫妻の在りし日の写真と、ラジウムの質量を計算した時のキュリー夫人直筆の拡大ファックスが掲げられている。イスラエル人科学者ユーリ・アロン博士のセミナーを聴講した。彼は理論系と実験系のちょうど中間に位置する研究者といえるかもしれない。私はこのような中間に位置する研究に触れたことがなかったためか、その時は、彼の癖のある独特の皮肉と、実験を伴わない仮定に基づいた理論に違和感を感じ、胡散臭い研究をしているなという誤解をもってしまった。しかし後日、彼と夏にコルシカ島で行われた合宿でご一緒したとき、彼の理論と科学者としての高度な思考を実感することになった。その後の彼の活躍は折に触れて見聴きすることになり、当時の自分の科学者としての見分の狭さを実感するとともに、日本の実験科学現場における肉体労働と労働時間を高い評価基準とし、理論や知的産物を軽視する傾向に日本の科学界に対する危機感を感じるに至った。
晩はピアニストの友人と、ルーブル美術館の地下の演奏会場で、スティーブン・ハフ氏のピアノリサイタルを聴きに行った。彼は、ピアノマニアの中では、特に超絶技巧マニアにとても人気があるピアニストである。CDでしか聴いた事がなかった彼の演奏であったが、予想通りの澄んだ音とクリアなタッチで、音量は意外と大きかった。ピアニストにはCDで聴くとよいが、ライブで聴くとがっかりするタイプと、CDではよさが伝わらないがライブでは感動的な演奏を与えるピアニスト、CDでもライブ演奏でも魅力が伝わるピアニストがいるが、彼のようなクールで特に演奏技巧がウリのピアニストは、その素晴らしさがCDでも良く伝わるのだと思う。彼の弾くモーツァルトは、彼の知的で計算された高度な技巧では、モーツァルトの純粋無垢な音楽が多少シリアスに感じたが、編曲物や現代音楽では、驚愕の超絶技巧と演奏技術の高いヴィルトゥオジティを堪能することができた。